彼女は実は男で溺愛で

「私、悠里さんの性別がなんであろうと、憧れの先輩には変わりないです」

 なにを言っても、もう悠里さんは私を見てくれない。
 それでも私は言葉を重ねた。

「それに、不用意に私が、その、触ってしまったせいで、こちらこそ不快な思いをさせて、すみませんでした」

 謝りの言葉を言い終えると、聞いているか分からない悠里さんに告げる。

「着替えないと帰れないので、もう一度、試着室を借りますね」

 頭を下げ、着てきた服を持って試着室に入った。

 そして着替えを済ませ試着室を出ると、悠里さんはいなかった。
 きっと、もう、二度と会えない。

 寂しくて、涙で目の前が歪む。

 私が、なにをしたっていうの?
 ひどい1日に、誰に文句を言えばいいのか、声を上げて泣いた。
< 78 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop