雨の滴と恋の雫とエトセトラ
第三章 不思議な三角関係なので

 瑛太は私の頬にキスをした張本人であるのなら、あの時なぜそうしたか覚えているはずである。

 遠い過去のあやふやな私の記憶を呼び覚ますように、瑛太は自ら自分だったと名乗りを上げて、あの時の事を持ち出した。

 ここで理由などある訳がないと言ったら、それはおかしい。

 それが例えば私の事が好きだったからとかそういうことでも歴とした理由のうちであり、この場合そういう答えが返ってきて自然じゃないだろうか。

 別に自惚れているとかは抜きにして。

 あの時、友達同士で賑わっていたし、エスカレートした子供同士の過激な言い合いで私にキスをするとか話し合ってそれで盛り上がっていたと考えたら、その背景がしっくりとくる。

 何かがあったから、子供達は言い合い、それで瑛太がそれに触発されて私の所へ突っ走ってきて勢いで私の頬にキスをした。

 あの時は、確かにそんな状況だった。

 必ず理由があるはず。

 引っ込みがつかないくらいの、あそこまで行動をさせた理由が──。

 私はそう確信した。

「瑛太、あの時のこと私に詳しく話して。私なんだか思い出しそう」

 避けていた話題だったのに、自ら首を突っ込んでしまった。

 私も、長年雨が降る度に思い出していた曖昧な記憶の元を、もっとクリアーにしてみたいという気持ちが急に湧いてきた。

 これがはっきりすれば、瑛太が絡んできた原因がわかるのではないだろうか。

 しかも私の知らない何かがそこに隠れているような気がしてきた。

 それを説明できるようになれば、拓登も私と瑛太の関係に納得するものがあるかもしれない。

 そしてこれ以上、瑛太に邪魔をされないで済む解決策が見つかる可能性だってある。

 急に私は活気づいてきた。

 だけどそれとは正反対に瑛太はしらける。

 瑛太はあれだけ私に記憶力がないと、思い出せない事を馬鹿にしてきたのに、この時になって真相を話す事を拒むようにしらばっくれだした。

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