雨の滴と恋の雫とエトセトラ
 その後はどうしたのか、すっかり記憶が抜け落ちているけど、そのことだけはぼんやりとして残っている。

 今となってはどこまで信用できる記憶なのかわからない。

 口ではなかったのが不幸中の幸いだったけど。


 外はいつしかどんよりとした暗さに包まれて、雨は次第に強まって行く。

 これで桜が散って行くのだろうと、なんだか寂しくなるが、雨を見るとまた思い出す事が増えたかもしれない。

 山之内君に傘を貸したということが、また何年か後に雨と共に思い出される記憶となるのだろう。

 傘を貸したときはなんとも思わなかったのに、友達が山之内君の噂をしただけで気になるなんて、結局私もかっこいい人に弱いってことなのだろうか。

 妙に山之内君のことになると意識をしてしまうようになった。
 

 そしてその日の放課後。

「倉持さん」

 自分の名前が呼ばれた。

 顔を上げて、その声の方向を見て、私はビクッとしてしまった。

 教室のドアのところで、今一番ホットな話題の山之内君が立っていたからだった。
< 8 / 248 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop