一億円の契約妻は冷徹御曹司の愛を知る
あたりを見回し、たくさんの可憐な花に覆われた樹木に目を戻す。ふうと息をついて、ごつごつした木肌にスニーカーのつま先をかけた。手近な枝を掴み、わずかな窪みを足掛かりにして、どうにか塀を超える高さまでよじ登った。
あきらかに不審な行為だけど、幸い目撃者はいないようだ。
太い枝の上で一息つき、人っ子ひとりいない通りから敷地内に視線を戻して息をのんだ。
そこにはあきれるくらい広大な景色が広がっていた。手前に立ついくつかの立木の隙間から、芝が敷き詰められたゴルフ場のような庭園が見える。
さすが、日本有数の資産家一族が暮らす家は伊達じゃない。
そんな邸宅に忍び込んで、ただで済むとは思っていなかった。それでも、この家の人間に話を聞いてもらわないことには、なにも始まらない。