負け犬の傷に、キス
津上さんの手から力が抜けていく。
せっかく泣き止んだばかりのダークブラウンの瞳がまた潤んでいった。
「津上さんが――好きな人が怖がってたら守りたいし、頑張ろうとしてたら俺も力になりたい」
かっこよくなってからじゃなくて、いつもそばで笑ったり泣いたりしてほしい。
隣にいてほしいんだ。
自信も覚悟も、ひとりきりじゃ生まれないから。
「津上夕日さん」
一旦手を離し、津上さんの前に立つ。
不安になってるのがバレないよう隠しながら
もう一度バラを差し出した。
「俺といたら今よりもっと怖い思いをするかもしれない。危険な目に遭うかもしれない。いいことより悪いことのほうがきっと多い。……だけど俺が全力で守るから。
だから……、それでもよければこのバラを受け取ってほしい……です」
どうかな。だめ、かな?
恥ずかしくても真っ直ぐ見つめれば、津上さんの長い下まつ毛から大粒の雫が滴った。
その雫は赤い花びらに落っこちる。
バラを持つ俺の手の上に
ゆっくりゆっくり
白くて小さい手が重なった。
「津上、さん……」
「ふ、……っ」
言葉はない。
一回大きく首を縦に振ると、ひとつまたひとつ涙がこぼれる。
泣きじゃくる津上さんに、空いてるほうの手で触れた。
すくい取った涙はひどく澄んでいた。