負け犬の傷に、キス





「――希勇くん。希勇くん!」




ハッと目を覚ました。

朱色まみれだった世界が、だんだんうす暗闇に変わる。




「……ゆ、ひちゃ……?」




視線を右横に移せば、心配そうにしてる夕日ちゃんがいた。




「どうしてここに……」


「もうすぐ時間だから起こしてあげてって、カオルさんが」




じかん…………ああ、時間ね。


もうろうとしていた意識がはっきりしてきた。



そうだ、俺……。
洋館の3階の個室で仮眠を取ってたんだった。



今、何時なんだろう。

時計を見たら、短い針が「2」を指していた。



真夜中2時か……。

ということは5時間寝てたんだ。


全然休まった気がしない。




「うなされてたけど大丈夫?」


「……うーん、まあ、うん」




大丈夫といえば大丈夫だけど
そうじゃないといえばそう。


汗びっしょりの額と、目元からこめかみまでの濡れた感覚が気持ち悪い。


最悪な夢見だった。



ああいう悪夢こそ、起きたら忘れたかった。


本物の過去シーンだから忘れられなかったのかな。




「……やっぱり、大丈夫。大丈夫だよ」




自分に言い聞かせた。


コトダマって言葉があるくらいだし、声に出したら本当になりそう。実際にその能力があれば一番なんだけどなあ。


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