負け犬の傷に、キス






雨が止んできたころ。


パトカーが到着した繁華街は、雨のせいもあってか先ほどより人気が少なくなっていた。



気を失ってる男3人の様子を調べている警察官を

薄暗い路地からうかがう怪しい影がひとつ。




「ひーふーみー……2人逃げたがしゃーねぇか」




とある男は警察官の動向を気にしながら、110番の履歴の残る携帯を操作する。




「隙を見て逃げられたときは焦ったが、まさか今日になって他のヤツがとっ捕まえてくれるとはな」




携帯内のフォルダには、双雷の3匹の犬が写った写真が。

逃げる直前に撮られたらしい。



“負け犬”の姿をアップにすると、目を瞠った。




「ん? こいつ、たしか……」




見覚えのある顔に、ニヤリと口角を上げる。



ふと路地の奥から、男と女の2人組がタバコの吸い殻を捨てて歩いてきた。


警察官が何かに勘づいたことを確認したとある男は、携帯を耳に当て、2人組の男女とすれ違う。




「あー、わりぃ。そうそう、そんでさ、また出たんだってよ」




わざとらしくひそめた声。

ここでは反響して、他人にも聞こえてしまう。




「あいつらだよ。

――“名無し”っつったっけ?」




うしろでひとつに束ねた長い髪を揺らして、愉快そうに路地の奥へと進んでいく。


語りかける携帯には誰もつながっていないというのに。



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