【BL】近くて遠い、遠くて近い。





全ての講義を終えたチャイムが鳴り終わる。

さっさと荷物を片して
リュックサックを背負った。




「あら、今日バイトけ?」




相変わらず隣に居た田口くんが
立ち上がるオレを見上げた。




「うん、ごめん」


「なんやー…昼飯うまかったとこ連れて行ったろ思うたのに」


「さすがに昼夜連続はやめときやww」




オレももう大学生。

もうずっと会っていない母親の仕送りを頼りに
生きているのはおかしい。

自立して、賃貸でも良いから
自分の家を持って生活できるように、
高校の時からちょいちょいやってたバイトの量を増やした。

夜勤も入れるようになったことで、
時給がかなり上がった。

このまま貯蓄を増やせば、
今年の秋には学校の近くへ引越しできそうだ。




ま、安アパートやろけど。




「ヒイロさ、ここんとこ無理しすぎちゃう?」


「ん?そう?」


「寝不足疲労ストレスは体とお肌に毒やでー」


「ははww 心配してくれてありがとw」


「だって俺しか言うてくれるヤツおらんやろ」


「……………」


「………悪い」





田口くんは、何も悪くない。

ただ、全部ナオくんに言ってもらいたい。
本当に、ただ、それだけ。

こんなに頑張っても、
ナオくんは何も知らん。

きっと心配すらしてない。
いや、それどころか

オレのことなんて、もう

忘れたんやないかな。





「………ヒイロ、ごめんて」


「あっ、い、いや、全然大丈夫」


「ほんならええけど…あんま無理すなよ」


「うん、あんがと」





本当は、不安で仕方がないんや。

もう、オレは捨てられたんやないかって。






「…じゃ、また明日」


「おん、…気ィつけてな」






オレは今、無意味な事をしとんやないかと。

不安でたまらない。








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