彼はリケジョな私のお世話係
プロローグ
現在午後5時57分。タイムリミットまであと3分。しかしどう考えても3分では終わらない。
できることならば今日はこのままここに残って徹夜したい。
彼に頼んでみようか、いや、許可されるわけがない。どうするべきか。


午後6時03分。今日は平均時間に比べて3分遅い。しかしまあ構わない。一分一秒でも長くここに残りたいのだから。


午後6時05分。ドアがノックされ、一人の男性が入ってきた。

「失礼します。美月を迎えに来ました」

ああ、来てしまった。今日は平均時間より5分遅かった。ダメ元で頼んでみようか。

「九条さん、今日残りたい」

「少し遅くなってごめんね、美月。残ることは許さないよ。さ、帰ろう」

そう言ってデスクにしがみつく私を強引に抱き上げる。身長180センチ、細身ながらもしっかりと筋肉のついたこの人に抱き上げられては抵抗もできない。

「夏目さん、美月連れて帰りますね」

「はいはい」

この空間のボスにいつも通り声をかけると、彼は私を右腕で抱いたまま私の荷物を左手に持って帰ろうとする。抱くというかもはや担ぎ上げられている。扱いが米俵と一緒だ。

「待って、本当に今日は残りたいの」

「中川さん、あとは僕がやっておきますから。結果も明日お伝えしますし」

後輩の浅見くんにそう言われ、もう私には帰る選択しかできなくなった。
浅見くんの後押しにより、これ幸いと彼は出口に向かう。


「せっかく培養したのに…私の大切な細胞たちがっ」

「はいはい、また明日続きをすればいい。浅見くんが見ておいてくれるんだから大丈夫だ」

背中をポンポンと叩いて慰めてくるが、そんなことで私は慰められない。
私を慰めたいなら今すぐさっきの部屋に、研究室に戻して欲しい。


今すぐ研究室に戻せとにらむが、彼は動じない。それどころか全く関係のない話を振ってくる。

「美月、今日は何が食べたい?」

「~!!」


…こんな生活今すぐやめたい。
なぜこんなことになってしまったんだ!!

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