約束の拳
「俺、××県に行くんだ。空手の推薦もらってさ……」

「じゃあ、もう進路決まってんのか?」

「うん」

地元に残るだろうと思っていたヒロトは、ナオと離れることになるということに実感が湧かなかった。でも、ナオは「空手の強い場所に行ける!」と喜んでいて、何も言えなかった。

寂しいから、こんな感情が渦巻くのだとヒロトは知った。ナオが努力している姿をもう見られないのが、空手の稽古を一緒にできないのが、寂しいのだ。

「ナオ」

ヒロトはまっすぐナオを見つめる。ナオの進路を応援したい。だから、約束したいことがある。

「俺、空手を今より頑張るよ。だからさ、こっちに戻ってきた時に一緒に稽古しようぜ」

「ああ、あの桜の木の下でな」

どちらからともなく拳を作り、コツンとぶつける。そして、二人で笑った。

遠いような、近いような、二人の未来を描いて。



そして、ヒロトは大学を卒業してからずっとこの場所に通い続けている。桜の花が、とても綺麗だ。

「待ったか?」
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