ごめん。ぜんぶ、恋だった。


「……意味わかんないよ。ちゃんとわかるように言ってよ」

お兄ちゃんはいつも私になにかを言いかけていた。

それで私は続きの言葉がなくても、気にしなかった。

でも今はちゃんと聞きたい。

そのために、電話をかけたのだから。


『俺は他の男にお前を取られるのが嫌なんだよ』


それは独占欲をむき出しにしたような口調だった。

心臓がずっとうるさい。お兄ちゃんに聞こえちゃうんじゃないかって思うほど。


「……私たち兄妹だよ」

『悪いな。俺はもうとっくの昔から俺お前のこと妹として見てなかった。引くだろ?』

「からかってるだけでしょ……?」

『そう聞こえる?』

私と同じようにお兄ちゃんの心臓の音が伝わってくるようだった。


『お前といると顔は冷静に見えても中身はそうじゃない。静まらないんだ、いくら落ち着かせようとしたって。全然気持ちがなくなっていかない。なあ、引くだろ』

まるで幻滅しろと訴えているように聞こえた。


焦げるように熱くて痛い、お兄ちゃんの本当の気持ち。

どうやって受け止めたらいいのか、どんな言葉を言うことが正解なのか、私はわからない。

でもひとつだけ確かなのは……。


「そういうのは電話じゃなくて直接言って。だから早く帰ってきなよ」

会わなければ、なにも変わらない。

ずっとお互いにくすぶっている気持ちを抱えたままじゃ苦しくて息ができない。


「帰ってきてよ、お兄ちゃん」

涙混じりに言うと、電話の向こう側から『うん』と返事が聞こえた。


その声は、ひどく震えていた。

< 112 / 139 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop