舞姫-遠い記憶が踊る影-

それは何という皮肉だろうか。
不安や恐怖を抑え込み、親が子に向けた曇りなき愛がタキの異質をはっきりと肯定する結果を生んだ。

「病院に行っても診てもらえば健康そのもので、むしろ、両親の虚言が疑われた。今となっては満月が引き金だと分かっているから、金色に染まった瞳で面と向かって立ち会いに行って両親への侮辱を取り消して欲しいものだけれどね。そんなことは当時できるはずもなくて、医師からの心無い言葉はどれほど悔しかっただろうな。特に異常はないと診断されても、俺はなるべく人と目を合わせないように俯きながら過ごしてたよ。人の心の深淵なんてわからない方が良い。今は第六感も随分コントロールできるようになったけれど、当時はできる対策といえば目を合わせないようにする事だけだったから。そうやって一月過ごして、満月の夜。また、オレの瞳は金色に染まった」

ぎゅっと眉間による皺は、自分自身への責めだろうか。
アタシは何も言えない。

「隣の家のおばさんがちょうどやってきていた時だった。母さんは玄関先でしゃべってて、扉が半分開いてた。……そこから、月が見えたんだ。いつも俯いていたのにどうしてその時顔を上げてしまったんだろうな?月が丸くてきれいだなって思った時には隣の奥さんが俺に気付いて。頭を撫でてくれようとした時に目が合ってしまった。そこには恐怖の感情が蠢いていて、金色になっていた俺の瞳を見てはっきりと『化けもの!』と言って走り去っていったよ。母さんは呆然としていたし、兄さんは肩を震わせていた。……両親や兄さんが離れてしまうかもしれないと思うと怖くて、とても目を合わせることが出来なかった」

恐れられる金色の瞳、というものにアタシは心当たりがひとつあった。
ここ、白薔薇の店主にのみ口頭で伝えられたその話。
確証はなくとも確信がアタシにはあった。

< 49 / 74 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop