舞姫-遠い記憶が踊る影-

「『いたぞ、やれ!』その一言、だった。それが全ての始まりで……そして、終わりだった。土足で上がってきた二人の男たちに、真正面から刀を振るわれて、かろうじて逃げたけれど、必死で家の中を走り回った。おかげで家の中はぐちゃぐちゃだった。でも到底大人の知恵や力に所詮まだ子供が適うわけがなくて、背中に刀を一振り、二振りと浴びたよ。ただでさえぐちゃぐちゃだった家が、自分血で赤く汚れていくのが見えた。応戦しようにも、家の中にある物と言えば、ギターに机に椅子、食器、かろうじてあったのは包丁。手を伸ばして掴んではみたけれど、二人組の大人の男相手になんてなるはずもない。おまけに出入り口側をふさがれてしまっては逃げ場がない」

「……」

言葉を発しようにも喉に支えて何の音も出てこない。

「ガンガン、と、激しい音を立てて威嚇しながら男たちは攻め立ててきて、ガクガク震える手で持った包丁で必死に応戦しようとするけど、自分の身に振ってくる刃を交わし、相手の手先や足にかすらせるのがやっとのことだった。故意に人を傷つけるという行為に吐き気がしたけれど、その時はただただ“生きる”ことに必死になって、体の痛みは麻痺していた。とはいっても体力も何もかも上の二人の男には当たり前だけど結局敵わなくて、ニヤニヤ笑った眼鏡に捉えられて、もう終わりだと諦めた時だった。家の中へと血相を変えて入ってくる両親、そして兄さんが見えた。助かったと思ったのか、逃げてと願ったのか、正直覚えていないんだ。だけど、これで助かった、なんて思ってしまっていたら、それはもう、本当に化け物……鬼の所業だと思うよ」

苦笑いをするタキをただ見つめて、続くの言葉を待つ。

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