君のキスが狂わせるから
***

 それから数日して、以前美桜先輩が言っていたコンペの第一次審査の結果が出る日がやってきた。

(先輩どうだったのかな)

 気にかけながらも、自分は企画や広報とはほぼ関わりがないので、情報を聞くこともなく淡々と作業を進めていた。

 午後になり、ランチ後特有の眠気に襲われた。
 それを飛ばすため、私はコーヒーを買おうと廊下へ出た。すると、企画室の前で見慣れた人の姿に目が留まる。

「……美桜先輩?」

 先輩は高級そうなスーツをぴしりと着こなし、“できる女”感がバシバシ伝わる服装をしている。
 そんな彼女と深瀬くんが向き合っていたものだから、思わず胸がピリッと痛んだ。

(コンペを理由に近づくっていうの、本気だったんだ)

「瑠璃ちゃん!」

 私の存在に気づいた先輩が、嬉しそうに手招きする。

「今、あなたの話をしてたの」
「私の?」
(どうして私の話……?)

 思わず首を傾げたくなるが、手にした資料を見てやはりコンペのことで会社へ来たのだと確信する。

「あの……先輩、コンペのことで会社に?」
「そうなの。一次審査に通ったから、私のコンセプトをもっと詳しく伝えたいと思って会社に出向いたってわけ」
「そうですか」

 私たちが話すのを見て、深瀬くんが警戒心を解いたように表情を緩めた。

「愛原さんと仲がいいっていうのは本当なんですね」
「だから言ったでしょう、結構長い付き合いなんだ…って」
「へえ……」

 私と仲がいいと聞いて、深瀬くんの先輩を見る目が柔らかくなる。
 その様子を見て、私の胸に訳のわからないモヤモヤが湧き上がった。

「深瀬くん、瑠璃ちゃんと一緒ならいい?」
「ええ……まあ、はい」
「なんのことですか」

 どうやら先輩は、コンペの話をもう少しさせてもらいたいからと、彼をお茶に誘っていたらしいのだ。

(驚くほど強気だなあ)

「じゃあ決まり!瑠璃ちゃん、仕事終わったら30分だけお茶に付き合ってもらえないかな」
「ええっ」

(いきなりだけど、深瀬くんもこれ以上粘られると困るだろうしな…)

 忙しい彼の仕事を足止めさせてもいけないと思い、私は30分だけという約束で3人でお茶をすることを承諾した。
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