私立秀麗華美学園
「タルト生地が薄めで、アーモンドが多くて、キャラメルフィリングもべったべたで大量のやつがいいな……」


ヨーグルトをかけたシリアルとフルーツだけの朝食を終えたゆうかは、両手で頬づえをつき、机に置いたアセロラジュースをストローからずこーっとすすりあげながら、ぶつぶつと呟いていた。

今日は咲と雄吾はいない。2人共早起きをして、どこかへ出かけて行った。珍しいことに、ゆうかは眠たそうな目をしている。ばったばったと騒がしく準備をする咲に、起こされでもしたのだろうか。


「……それは、今すぐ作れってことっすか」

「え、ああ……いや、別にそういうわけじゃないけど……」


ぼやぼやと聞き取りにくい言葉をいくつかもらしたあと、ゆうかは大あくびをした。
遠まわしの要求というわけでもなさそうだ。もう9時を過ぎているというのに、今にも寝入ってしまいそうなほど、ゆうかの表情はぼんやりしていた。


「今日、何か予定ある?」

「予定ー……? 別に、何も。あ、バターサブレ食べたい」

「は?」


思わず真顔で聞き返してしまった。
予定ある? バターサブレ食べたい。て、ねぼけてるよ完全に。あのゆうかが、なんか知らんが寝ぼけてる。


数秒経って、ゆうかは瞬間的にはっとしたような表情を見せて、「いや、うそうそ。今の嘘だから」と言った。これは断言できる。何か、ゆうかが変だ。


「予定、今日は何にもないから、もうひと眠りしようかな、と」

「あー、うん、そうした方がいいと思う。食器持ってくから、寮帰って、寝ていいよ。俺も別に予定ないし」


完全な寝ぼけまなこのゆうかは、どうもー、と呟くとふらふらと立ち上がり、やっぱりふらふらと、心配になるぐらいふらふらと、すりガラスの扉を押しあけて、ハート寮への階段を昇っていった。

まあ、寝不足な日ぐらい誰にでもあるもんだよな。
しかしゆうかといられないとなると、今日は本格的に暇だ。フロランタンかバターサブレを作るという手もあるが、どうせなら出来たてを渡したい。あ、俺も二度寝しようかな。

食器を両手に持った途端、あくびが飛び出した。怠惰にもほどがあるが、たまにはいいだろう。
今日の過ごし方、決定。

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