私立秀麗華美学園
ゆっくりと朝食を摂り、部屋の掃除をしたりしていると8時半になっていた。
散歩でもしつつ行くとするか。健康ヲタクの雄吾もそうしていることだろう。



重々しいガラス張りの巨大なドアを開け、大きく深呼吸。
朝の凛とした空気が体の隅々にまで行き渡り、背筋の伸びる思いがした。


学園の敷地内には四季の植物が何百種と植わっている。

5月なだけあって緑が目に鮮やかだ。
フジやガーベラ、アヤメなど花々は咲き競い、中庭や敷地の至るところで彩りを添えている。(ちなみに俺が口にする花名は全てゆうかに教え込まれたもの。8歳頃に)

空は真っ青で、まさに五月晴れ。



たまにはこんな日も悪くないな、と柄にもなく思う。

早起きして正解だった。
正確には、早起こされてだけど。



鼻歌交じりに当てもなく歩いた。
時々カップルに出会うとすぐさま方向転換をする。
いや別に、ひがみとかじゃなくて、本能なんだよ。本能。


やがて、体育館に辿り着いた。
朝練をしていてもおかしくない時間ではあったが、そんな声や熱気は感じられない。
近づくと、きゅっきゅっと室内履きが床をこする音がしてきた。
音から察するに1人らしい。

半開きのドアから中を覗くと、その人物はバスケットボールを操っていた。


……笠井だ。


自主練、だよな。まさかストレス発散のためではないだろう。


笠井がゴールに正対したと思ったら、きゅっと小さな音がひとつして、いつの間にかボールはリングをなぞっていた。
そのままスパッと入って、床を跳ねたボールには即座に笠井の手が伸びて来る。


真剣な表情をした笠井から放たれたボールは綺麗な弧を描き、嘘のようにゴールへ何本といわず入っていった。


それが5分ほど続いたあと、笠井は汗を拭いながら入り口を見た。もちろん入り口の方では、目を丸くした俺が突っ立っているというわけだ。


「なんだ。熱狂的ファンかと思いきや、お前かよ」


様子から言葉もないと悟ったのだろう。
笠井は無遠慮ににやついた。気色わる。


「自主練か」

「ああ……お前、確かサッカー部だったよな」


……グサッ。
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