私立秀麗華美学園
「おはようございます。お久しぶりでございますね。お休みの間は、さぞや勉学に励み、新しい学期からは目標を据えて、更なる向上を目指していかれることになるかと思いますが……」


入って来たのは担任の榎木先生。相変わらずの厚化粧だ。顔と首の色が全然違っておられますよ。

先生はいつも通り長々と何やら勉強に関する話と自身が休暇中に訪ねた諸外国のことを話していた。

榎木先生は語学教師で、4、5か国語にも通ずるという噂だ。
10代後半から30歳になるまでの多くを外国で過ごし、ボーイフレンドが変わるたびに相手の母国語を習得していったという話もあるが、真相は定かではない。


先生は、スペインで遭ったスリを追いかけて行ってとっちめたという勇ましいエピソードで生徒の笑いを誘ったあとに、はた、と動きを止めて「あらまっ」と叫んだ。


「私としたことが。うっかり忘れるところでしたわ。実は急なお話なのですけれどね、今日から数週間、クラスメイトが1人増えるのですよ。
さあさ、入って頂戴」


そう言うと先生は扉の方に向かって手招きをした。
そこまで連れてきといて、放置したまま土産話語ってたんですか。


突然のことに教室内はどよめく。
およそ40人の期待に満ちた視線を受けて、扉の向こうから現れた、その生徒は、


「よかった。僕はもう、このまま教室に入れてもらえないのかと思いましたよ」


言って、先生の隣に立つ。

それは男子生徒だった。
そして彼はとても背が高く、浅黒い肌と、金色と茶色の中間みたいな髪を持っていた。


「なんでも休暇中に突然椿先生が思い立ちなさったようでねえ。

今学期、長くはない間なのですけれど、日本に興味がある外国の学生の方を留学生として1クラスに1人受け入れることにお決めになったそうですよ。

ということなのでいきなりですけれど、彼が今日からしばらく、クラスメイトとして加わることになります。

それでは自己紹介をして貰えるかしら、ヨハン」

「はい」


ヨハンと呼ばれたその男子生徒は、はっきりと返事をし、教壇に上ると測ったようにほとんど45度の、綺麗なお辞儀をした。

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