私立秀麗華美学園
「……ちょっと、話が脱線してしまいました」


手だけつないで、きちんと前を向いて座り直す。身一つで出てきてしまった俺たちは何も持っていなくて、ゆうかは俺の服の袖でぐいぐい涙を拭いた。


「そんなこんなのバレンタインで、うん、そうそう、バイバイって言ってちゃんとお別れもしたでしょ、それから、実力行使もしたし」

「あれこそほんとに不意打ちっていうか、だまし討ちだよ。抱き締め返す間もないまま走ってっちゃうし」

「カッチーンって感じで固まってたね」

「それとあの時に言われたこと、幸ちゃんが来てからすっごい悩んだよ。『待たなくてもいいのよ』って」

「ああ、既にわたしも好きだから待たなくていいんだよって意味だけど、なんで?」

「幸ちゃんが代わりになるから、もう自分を待つ必要はないって」

「なるほどー。じゃあわたし自分で危うくしてたんだ。そんなつもりじゃなかったんだけど」

「幸ちゃんが転校してきて、その意味に気付いて、しばらくほんとに辛かった。死んだように生きてた」

「そして親たちの思惑通り、笠井くんと仲良くなったわけね」


確かに、ゆうかがいなくなってからのことが大きかった。正直、仲良くというか一方的に励ましてもらってただけな気がしなくもないけど。


「いやー、幸とはさー、わたしも小学生の時ぶりだったのよ。全然連絡取ってなくて。幸が和人のこと好きな気はしてたし。幸が学園に行く直前に会って話して、あんまり過激なことしないでよねって言っといたんだけど」

「過激……え、でもその時って、ゆうか風邪引いて寝込んでたんじゃ」

「あ、そっか。それね、嘘なんだよね」


へへへ、と、ちょっとだけきまり悪そうに笑っている。確か兄ちゃんは、仮病の予定がほんとに風邪を引いたからとか言って……


「計画では、わたしが仮病で学園からいなくなるのは幸とのことにけりがついてからのはずだったんだけどね。
お母さんたちに嘘ついて、わたし、先に逃げちゃった。だって耐えられる気がしなかったんだもん。幸にまとわりつかれて、別に和人がでれでれするとかは思ってないけど、どうせ無下にもできないしなんて思って中途半端に優しく対応するの。ぜったい見てらんないって思って。真理子と稔さんと、それから雄吾に協力してもらって」

「言われてみれば、ゆうかが病院に、って俺と咲に教えてくれたの雄吾だったもんな……」

「最初から雄吾のことは欺けないなって、みんなで言ってたからね。咲のことは騙したくなかったけど、ほころび出ちゃいそうだからやむなくね。あとですっごい恨みごと言われそう」
< 569 / 603 >

この作品をシェア

pagetop