私立秀麗華美学園
廊下に突っ立っていてもしかたがない。重い足を引きずりながらも、俺は自分のクラスへ向かった。


何しろ、俺は勝負に負けたのだ。
つまり今度の学祭の主役はゆうかとあいつということになる。

長い台本の読み合わせ。俺はどうせその間音響入門とかいう本でも読んでるんだろう。
放課後にまで及ぶ練習時間。
ただならぬ彫刻がほどこされた窓から差す夕日。
毎日恋人役を演じ続けた2人はやがて現実にも……とうわけでめでたしめでたしか。


「……だめだー!」

「さっきから、何なんだよお前……」


真二が引き気味な様子で尋ねてくる。やめてくれ。ブロッキングハートなんだよ。
粉々になった硝子のハート。プライドは落下したシャンデリアの破片にも負けず劣らず砕け散った。なんて、かっこつけてる場合じゃねーけどさ。

そこで戸の開く音がして担任が入って来た。


「静かに! ここは動物園ですか? 全く、良家の子女や子息が学力検査の順位ごときで喚き散らして……」


また理不尽な説教が始まった。
ふと視線をおとすと、担任の持ってきたプリントの中に学祭という文字が見えた。ああ忌々しい。


「先生! あの、学校祭について、何か決定事項があったんですか?」
 

ゆうかも鋭く察したらしく即座に質問をした。


「あ、ああ、決まりましたよ。何でも今年から、出店規約が変わるそうで。この学年は、調理、模擬店の部門に限定されるそうですよ」

「なっ……!」


勢いよく笠井が立ち上がった。
俺は耳を疑った。調理? 模擬店!? まじっすか!? 公演映像等々は含まれないんですねよっしゃきたー!

俺の目に初めて担任が尊く映った瞬間だった。


「か、笠井君、どうかなさいましたか」


笠井の目は血走っている。しかし、何度も言うように劇だと決まっていたわけでもないので、文句なんぞ言えるわけもない。


「い、いいえ……」


笠井はふてくされた様子で席についた。担任はいぶかしげに首を傾げ、説教を再開した。
斜め前からゆうかが口ぱくで何か伝えている。


『命拾いしたわね』


全くもってその通りである。



















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