英語が苦手でもシリコンバレーで成功しちゃえ!
アイポッドとの出会い
面接のノウハウについて書いてきたが、自分には面接なしで正社員になった、とても幸運 なケースがある。人脈の大切さもよく分かった経験であった。
自分がある会社で働いて1年たった頃、知り合いのソフトウェア・エンジニアに、話があると言われ、コーヒーショップに呼び出された。
とりあえず行くと、彼は詳しいことは言えないが、アップルに来てくれないかと言う。彼は今、あるグループでソフトウェア・エンジニア・マネージャーをしているという。彼のことは信頼していたが、何度も何の製品の開発部にいるのか聞いても、彼は答えなかった。
自分は、考えさせてくれと言って、別れた。今、勤めている会社は大変だが面白い仕事をさせてもらっている。いい仲間にも恵まれていた。
そのころアップルは衰退する一方で、立て直しのために、スティーブ・ジョブズが社長として帰ってきたところで、転職するにはあまりよい会社とは思えなかったのだ。
しかし、やはりコーヒーショップで会った彼とは5年近く一緒に働いたし、ものすごく能力がある彼ともう一度働けるのは、魅力的だった。
自分は彼に連絡し、面接だけでも受けていいと返事をした。
指定された日にアップルへ行くと、面接場所がなかなか見つからなかった。それもそのはず、メインキャンパスから外れたところにある、アップルのロゴも出ていない3階建ての小さなビルが指定されたところだった。
面接が始まったがどうも様子が違った。今までの面接と違って、適当なのだ。エンジニアが一人来て、
「日本語分かる?」
「はい、わかります」
「じゃあいいや」
と言って面接者のエンジニアがさっと来て、それだけ聞いて去っていった。
次は品質管理エンジニアが2人来て、ある機械を見せて、その機械を操作して感想を言ってくれという。
その手のひらにおさまりそうな白い機械には、イヤホンが付いていたので、それを耳に入れて、あれこれ操作しているうちに音楽が聞こえてきた。
「音楽が聞こえる。すごいですね」
「でしょう!」
ニコニコしながら2人は部屋を出て行った。
あれ?これは面接じゃないな。自分はもうこのグループに入ることがきまっているんだなと思った。
それからすぐに、自分は友達と予定していたハワイにバケーションに行った。一応例のマネージャーの友人には、宿泊先のホテルの電話番号を教えておいた。
すると、ホテルに電話がかかってきた。例のマネージャーの友人だ。
「是非、アップルに来てくれないか」
もう断る理由もなかった。
「はい、休暇が終わり次第、アップルに入ります」
これが自分とアイポッドとの出会いであった。
アップルに行くと、名刺に製品名はなく、「スペシャル・グループ」とだけある。そして働き始めるとだんだんと、いろいろなことが分かってきた。このグルースはティーブ・ジョブズが作った30名ほどの秘密のグループで、アイポッドとアイフォンの開発をしていること、スティーブが直接指揮をとっていること等々。現場の空気はいつも張りつめていて、夕方になると夕食の出前メニューが回ってくる。そう、残業は当たり前なのだ。
毎日夕方になると、主なエンジニアが集まって、会議をした。会議では、今日開発したデザインをスティーブに見せたら、壁に投げつけられたとか、一度スティーブがだめだししたデザインを彼が「素晴らしいデザインを思いついた」と言ったとか、面白い話もきけた。
その会議では主に、品質管理エンジニアが見つけたバグに優先順位を付けた。

スティーブ・ジョブズとの昼食会
アイポッドが発売され、話題になり始めたころ、スティーブがスペシャル・グループのみんなを昼食会に招待することになった。急だったこともあり、みんないつものよれよれのT-シャツに半ズボンかジーパン。ぞろぞろとどこに行くかもわからず、メインキャンパスへ連れていかれた我々は、とっても緊張していた。
ついた部屋は、アップルにこんな部屋があったのかと思った。グランドピアノが置いてあり、大きな窓に囲まれた、パーティをするような部屋だった。そこにバイキング形式で寿司、サラダ、ローストビーフ、エビなどが所狭しとならんでいた。いや、そんなことより、グランドピアノの横には、スティーブが立って我々を迎え入れていた。
どうあいさつするの? 握手とかするの? と思っていると、みんなスティーブがそこにいないかのように素通りしていった。それほどみんな緊張していたのだ。白いテーブルクロスがかかったテーブルに座った我々は、「よし!」と言われるまでだまってそこに座っていた。そして「よし!」を合図にご馳走を取りに行った。
スティーブは相変わらずピアノの横に立って、自分をこのグループにスカウトしたエンジニア・マネージャー等と立ち話をしている。我々は言葉を発することもなく、もくもくとご馳走を食べた。
そのうち、スティーブは誰にも挨拶することなく、部屋を出て行った。やっと一息つけたグループの仲間たちと自分は、近くにある地ビール屋に行き、
「思ったより背が小さかったな」
「挨拶する勇気なかったよ~」
「オーラがすげえ」
などと、ビール片手に語り合ったのだった。

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