アラサー女子は甘い言葉に騙されたい
「周くん、早いね」
「お待たせするわけにはいかないから。エスコート頑張ります!」
「そんなに張り切らなくていいのに……」
「同伴は大切らしいので!」
「………そっか。頑張ってね」
彼の1つの言葉で喜び、1つの言葉で切なくなる。こんな事はやめるべきだとわかっているのにやめられない。
「……じゃあ、行こうか?」
きっとうまく笑えてないとわかったので、吹雪は彼に背を向けて先に歩きだそうとする。すると、彼が吹雪のスプリングコートの袖をつまんでそれを止めた。
「………どうしたの?」
冷静を装いながら笑顔で振り返ると、周は顔を赤くし、俯いた状態で何かを言いたそうにしていた。吹雪は不思議に思いもう一度「周くん?」と彼へ声を掛ける。
すると、雑踏の中やっと聞こえるぐらいの声で周は声を出した。
「手、繋ごう?それが嫌だったら……腕に掴むのもいいから」
「………いいけど。それも慣れるため?」
「うん………そうだけどダメかな」
どの行動のホストのため。
それを理解して承諾したのだから、引き受けなければ、と吹雪は「わかった」と言って彼に手を差し出した。
すると、周は「やった!」と子どものように純粋に喜び、優しく吹雪の手を取った。彼の手はとても温かかった。
「………何か緊張するね」
「ホストなんだからこれぐらいで緊張しちゃだめなんじゃないの?」
「そうなんだけど………慣れるかなぁ……」
頬を染めながら繋いだ手を見つめる周は、初めてのデートで緊張する少年のようで、吹雪は微笑ましくなる。吹雪も恋愛経験が多い方ではないけれど、手を繋いだことぐらいはもちろんある。それに自分以上に緊張している彼を見ると、何だか少しだけ安心してしまったのだ。