アラサー女子は甘い言葉に騙されたい



 「柴田さん!」
 「周、久しぶりだなー」


 周はその男性と面識があるようで、お互いに挨拶をした後、「こちら、明日見吹雪さんです。吹雪さん、食器が好きなんです」と、紹介をしてくれた。


 「柴田さんは俺の知人で、このギャラリーで展示している硝子を作った人なんだよ」
 「そうだったんですね。素敵な作品ばかりなので……これからゆっくり拝見させてください」
 「えぇ。ゆっくりして行ってください。あなたのような女性に見られたら、俺の作品も喜ぶでしょう」


 そう言って柴田は大きく笑った。
 けれど、先程から柴田はジロジロとこちらをさりげなく見てきているのがわかった。
 その視線を不思議に思いつつ、吹雪は柴田としばらくの間会話を楽しんだ。


 「明日見さん。しばらく、周を借りますね。久しぶりに会ったもので、少し話したいことがあるので」
 「えぇ、もちろん。私はギャラリーを見させていただきます」
 「………吹雪さん、ごめん。すぐに戻るから」


 柴田に言われ、周は奥にあるスタッフルームに呼ばれて行ってしまった。久しぶりに会ったのだから、話したいこともあるだろう。

 それに、昨日の夜に偶然見つけてしまった、彼の大学の学生証。美術系の大学だった事から、もしかしたら大学の先輩なのかもしれない。そう予想を立てながら、吹雪は一人でギャラリーを見て回った。
 すでにお客さんも少しずつ増え始めていた。スタッフも多くおり、柴田という男は有名な人だというのがわかった。


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