恋に負けるとき



「しーぶや。」



教室のドアから覗き込むよう



声をかけてきたのはチカ。



「おー…」




顔を上げて、返事だけする。



誰もいない教室。



栗色の髪の色にゆるふわパーマ




胸元まであるその髪を揺らして




「何やってんの?部活は?」




チカが教室に入ってくる。



短いスカートから生足がのぞいている。



「ん。ちょっと居残り」




「えー。何やったの」




チカは笑いながら、前の席に座る。



おれは、普通の顔して内心



焦っている。



なぜなら、田所さん待ちだから。



朝やんから罰を言い渡されて




居残り課題!




2人になれるよう、クラスのみんなを




早々に帰らせたのに!




それに、別に悪いことしているわけじゃないけど



誰もいない教室で、



チカと2人でいるなんて、



見られたくないみたいな。



勘違いされたくない!



「ねぇ。あのこ覚えてる?



前遊んだことある」



「…んー」



許せ。チカ。



おれは携帯から顔も上げず



気のない返事。



チカがそんなおれを見てか



ポツリと言った。



「渋谷、変わったね。」



「渋谷らしくないんじゃない」



は?




どういう意味?




思わず顔を上げたおれに



「前はそんなんじゃなかったよね。



振られてるのに、まだ




追いかけるなんて」



責めるようなチカの顔。




「それって、意味あるの?」



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