続・闇色のシンデレラ
「頭を、上げてください」



思いもよらない行動に面食らい、わたしはあたふたと頭を上げるよう促した。

それでも、彼は頭を上げようとしない。

それほど自分のした行為を悔やんでいるようだった。

ならば最初からしなければよかったのに……。



「終わったことです。危険にさらされたとはいえ、わたしもお腹の子も無事でした。
入院したとはいえ、命に別状はありませんし」

「違う」

「……?」

「俺はお前の口から本心が聞きたい。それが遠慮した返答だとは分かっている。
俺は最低な男だ。……気が済むまで、罵ってくれ」



彼はわたしのポーカーフェースに参ってしまっているようだ。

荒瀬の親族の中で唯一、心を許していない人だから。

それを彼も感じているんだろう。



「本心、ですか……」

「……」

「それはあなたに心を許したならば、いつか語るでしょう。
今は、あなたの事を信用出来ない。
たとえあなたが義理の父であろうとも。
それが今のわたしの本心です」



しかしわたしは自分で言うのもなんだけど、頑固な人間だ。

残念ながら、一度溝を作ってしまった人間と、一瞬にして仲良くなれるほどの寛大さは持ち合わせていない。



「……そうか、分かった」



すると彼は、困ったように眉を下げ、顔を伏せた。

獅子の困り顔はなぜだか志勇に似ていて少々焦ったが、そこで許してしまうわたしではない。

いじけた子どもみたいにツン、と顔を背けていると。



「では、紘香の話を聞いてやってほしい……」



そう言って、彼は更に顔を曇らせた。
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