エレベーター
あたしは一穂に軽く手を振り返し、スマホを教室内へかざした。


ビデオ通話ということなので自分の顔ばかりを写したって仕方がない。


「今、教室にはあたし1人しかいません。外は少し薄暗くなってきて、なんだか不穏な空気です」


そんな風にナレーションをしてみたら、幸生の喜ぶ声が聞こえて来た。


『本格的な実況みたいだな!』


興奮した様子でそう言っている。


「では、教室を出たいと思います」


あたしはスマホをかざしたまま1年B組の教室を出た。


「廊下にも誰もいません」


見える範囲の廊下を映し出してそう伝えた。


そうしている間にだんだんと自分も調子に乗って来るのを感じる。


ネットの配信者にでもなった気分だ。


『そのままエレベーターに向かって』


幸生から指示が出され、あたしは頷いて歩き出した。
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