クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「どこか寄っていこうか」
「はい」

 どんなことでも聞いてくれるのに、手を繋いでほしいという願いはきっと叶えてもらえない。

「……夏久さん」
「今度はどうした」

(――私を好きになってください)

 そんな気持ちは飲み込んで、笑ってみせた。

「なにを言おうとしたか忘れちゃいました」
「思い出したらまた言ってくれ」

 デートを願ったように、もっともっとと欲張りになる。
 でもこれは私のせいではない。

(……夏久さんが、優しいから)

 道を彩る花が強い風に吹かれ、甘い香りを巻き上げていく。
 目の前に飛んできた花びらから私を守るように、夏久さんがそっと抱き寄せてくれた。
 風が吹きやむのと同時に再びぬくもりが離れてしまう。
 こんな気遣いを見せられれば、誰だって惹かれるに決まっていた。だから欲張りになって、もっと近付きたいと願ってしまう。

 私が踏み出す分、夏久さんが離れていくとは考えたくない。
 一方的なデートの日はもう少し期待してもいいと思いたかった。
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