クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
「夏久さん、早く早く」
「そんなに隣に来てほしいのか、そうかそうか」
「自意識過剰はもういいですから、ほら」
「……そこまで自意識過剰か?」

 満足げなにこにこ顔から一転、不満そうにしながら夏久さんが隣に座る。
 その手が私の腰をそっと抱き寄せた。

「どうしたんですか?」
「俺がしたかっただけ」
「支えなくても大丈夫ですよ」
「そういうつもりで抱き寄せたわけじゃないぞ」

 ぐっと腕に力が入って、もっと距離が縮まる。
 夏久さんの顔まで近付いて、勝手に体温が上がった。

「夏久さん」
「ん?」
「花火、見損ねちゃいますよ」
「……この状況でそれを言うのか、君は」

 呆れられるのもわかるほど、顔の距離が近かった。
 いくら私だってここまで許したら後はキスをするだけだということぐらいわかる。

(わかってるから、恥ずかしいんです)

 夏久さんが好きだから、一度意識してしまうともう頭が真っ白になってしまう。
 そうなったらきっと情けないくらい失態を犯してしまうに違いない。
 それを避けたいなら意識しないようにするのが一番だ。
 夏久さんみたいにうまく茶化して、どきどきする空気にならないように――。
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