クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 夏久さんが空いたもう片方の手で、私のお腹をおそるおそる触る。

「くすぐったいです」
「触っても大丈夫かと思って。……君の身体は柔らかいから」

 どき、と心臓が大きく跳ねる。
 そんな言葉を耳元で囁かないでほしい。

「普通に触って平気です。……ほら」

 夏久さんの手を軽く引いて、お腹の上に滑らせる。

「潰れたりしませんよ」
「縁起でもないことを言うんじゃない」

 そう言いながら私のお腹に触れて、夏久さんが微笑む。

「この子にも早く見せてあげたいな。俺たちがきれいだと思ったものを」
「そうですね」

 撫でてくれる夏久さんの手を見つめてから顔を上げると、タイミングを合わせたように目が合った。
 私の姿を捉えた途端、その瞳が柔らかく和む。

(初めて意識したときも、こんな感じじゃなかったっけ)

 勝手に鼓動が速くなっていく。
 それを感じながら、目をそらせずにいた。

「さっきの質問に答えてなかったよな」
「え? なんでしたっけ」
「花火と雪乃さんとどっちが大事かって話」

(そういえば、そんな話……)

 すり、と頬を触られる。
 優しく添えられた手が、ゆっくりと私の顔の向きを固定した。

「さっきから花火どころじゃないって言ったら、伝わるか?」

 伝わらない、と敢えて言おうとした。
 でも、その前に唇を塞がれる。
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