クールな社長は懐妊妻への過保護な愛を貫きたい
 以前だけでも充分だと思っていた私は、もっと支えたかったという夏久さんの言葉を話半分で聞いていた。
 もう少し会話が増えるだとか、散歩に付き合ってくれるだとか、その程度だと思って油断した結果がこれだ。

(秘書さんにはいずれお礼をしないとな……)

 ぐったりする私とは対照的に、夏久さんは忙しなく部屋を歩き回っている。
 そして、せっせと毛布を持ってきては私をくるんでいた。端から見ればなにかのまゆと間違われてもおかしくない。
 これまでずっと自分の部屋で眠っていたけれど、体調と一緒に精神面も不安定になってからは夏久さんと一緒にこの寝室を使っていた。

「傷付ける意図はないんですが、もしかしたら心ない言葉をぶつけてしまうかもしれません」

 そう言った私を夏久さんは当たり前のように受け入れた。

「俺が散々言った分、好きなだけ言えばいいよ。全部聞くから」

 それからというもの、夏久さんは後ろからぎゅっと抱き締めて私を眠りに誘ってくれるようになったのだ。
 なによりも安心する香りに包まれてよく眠れたけれど、もしこれが通常の体調のときだったら逆に危険だった。

(キス以上のことをどうしても考えちゃう……)

 私と夏久さんの始まりはそこからだった。
 そのせいで深く記憶に刻まれており、気を抜くとすぐ思い出してしまう。

「雪乃さん、そろそろ秘書が着きそうだ。起き上がれるか? もしなにか食べられそうなら、買ってきた果物を切ってもらうが」

 はっとして首を横に振る。

「そこまでさせられません……」

 毛布の山を押しのけて起き上がろうとすると、すかさず夏久さんが飛んでくる。
 そして、壊れ物を扱うように抱き支えてくれた。
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