sweetな彼とbitterなハニー

 そんな恒例の状況を見つつも私は春先にリニューアルされる定番商品の販促計画を作成する。
 出来上がると印刷してクリップでまとめて柊吾さんのところに持っていく。

 彼は一年前に社外広報のメンズ部門の主任に抜擢されていた。
 穏やかでイケメンな甘いマスクの彼は、仕事もきっちりこなせる人なのだ。
 だからこそ、本命交じりのこのバレンタインのチョコも受け取り拒否なんてしない。
 ずっと見てきたから知っているし、先輩事務員の加奈子さん曰く新人の入社当初からこんな感じだと教えてくれた。
 加奈子さんは、この社外広報のウィメンズ部門の事務方で元々は広報主任だったのだけれど結婚と出産を機に事務方に移動したバリバリのキャリアウーマン。
 今は五歳の男の子のママで、時短勤務だけれどいずれは主任にまた戻れるだろうと言われるほどの仕事のできる人。
 憧れの先輩で、柊吾さんよりも四期上なので現在の広報部では加奈子さんはここで一番広報の仕事を分かる先輩としていろんな人の相談に乗っていたりフォローしていたりする。

 そんな加奈子さんにお付き合いがバレたのはちょうど二年前、お付き合いから一年が経ったころだった。

 「涼音ちゃんも大変ね、人気者の彼氏だと」

 ちょうど今みたいにバレンタインでみんなに囲まれてチョコをもらっている柊吾さんを内心複雑に思いつつ眺めていた時に、こそっと声を掛けられて私はびっくりしたものだ。

 「加奈子さん、どうして?」

 私と柊吾さんは関係を誰にも話してなかったし、バレない様に職場では先輩後輩の関係から崩さなかったし、お付き合いもゆったりとしたもので互いの部屋を行き来することが多くあまり外に出かけたりしなかったのでバレていないと思っていたのだ。

 「ん? 見てると分かるものよ。だって今の彼、笑顔の裏で申し訳なさに縮こまってるもの」

 クスクスと笑っている加奈子さんはしかしにこやかに言い放った。

 「でも、彼女の見てる前でこんな状態を良しとするなんてとんだダメ男ね」

 バッサリと切り捨てるように笑顔で言われたセリフは、私の複雑だった内心に共感してもらえたようで自分がおかしくないんだと思えってホッとしたのを覚えている。
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