山窩村
近付く運命の時

人生の最高潮

「ねぇ!山沢トンネル行ってみない!?」


頭が痛くなるような問題文に目を通しながら、私はカリカリと鉛筆を白紙のノートへ書き出していた。
エアコンで部屋の中は快適そのもの、静かな空間にそんな声が聞こえてくる。


私はゆっくりとノートから声の主へと目線を移すと、嫉妬してしまいそうなほど綺麗な髪を揺らしながら彼女はキラキラと光る目で私含む三人を見ていた。

宿題が一番溜まっているであろう彼女のノートは先程買った新品と思ってしまう程綺麗な白紙で、片手には鉛筆ではなくスマホが握られていた。


「....ねぇ莉音。スマホなんかいじってないで宿題しないと...また最終日徹夜漬けになっちゃうよ?」


「大丈夫大丈夫!だって後一週間もあるんだよ?余裕のよっちゃんだって!」


彼女は志澤 莉音。印象としてはパワフルで元気な子。運動はそこそこできるが、学生の本分である勉強はからっきし。面倒ごとはすぐ後にしてしまうそんな子だ。


今の時期は夏休み。学生にとっては天国のような長期連休の最中。用事がなければどんなに寝ていても怒られない楽園のような時間だ。

だが、そんな時間に水を差すように夏休みの宿題という膨大な異物は当然のように存在する。
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