もう一度あなたに恋をする

午後二時を回った頃に病室にやって来た久瀬さん、

「朱音、体調はどう？」

私の事を『九条』ではなく『朱音』と呼ぶ。
久瀬さんの顔を見ただけで昨晩の事が思い出され顔が熱くなり、思わずまた布団の中に避難してしまう。

「朱音？・・・困ったな。ねえ、顔見せて安心させてよ。」

甘い。久瀬さんの声が今まで聞いたことのない甘い声だ。
おずおずと顔を半分だけ出してみた。するとチュッと額に柔らかいものが触れた。
またキスをされた！ビックリした私は頭まで布団の中に逆戻りだ。

「ハハハ、ごめん。朱音が可愛くて、つい。あーかね、もうしないから顔見せて。」

両想いになった途端に『朱音』呼びに変わるし、今までも優しかったけどそれに甘さまで加わった。
学生時代に一度しか付き合ったことのない私にはハイレベル過ぎる・・・。




入院中、久瀬さんは毎日顔を出してくれた。昼間だったり今日のように面会時間ギリギリだったり。

「久瀬さん、プロジェクトの方は大丈夫ですか？」

「ん？大丈夫。次の会議は年明けだからまだ時間あるし。退院したら朱音に頑張ってもらうから。」

「はい、頑張ります。」

「うそだよ。朱音はホントに無理して頑張りそうだから心配。」

そう言いながら頭を撫でキスを落とす。
たった三日で何度目だろう。来た時と帰る時そして・・・。
私もなんとか布団にもぐる事はなくなったが、その度に顔が赤くなるのは治らない。

トントン、ドアをノックし先生が入ってきた。

「九条さん調子はどう？・・・・？あれ？顔が赤いね熱でもある？藤崎さん夕方熱あった？」

「いえ、平熱だったようですが。」

この顔の赤さは確実に久瀬さんのせい。横でクスクスと声をこらえながら笑う久瀬さんを見て先生は

「あっ、邪魔しちゃったかな？」

と・・・。
気まずいまま診察され、明日退院してもいいと許可がおりた。
一人でタクシーで帰ると言ってみたが久瀬さんから却下され、『十時ころ迎えに来るから。』と面会時間が終わったので帰っていった。



朝、いつもの様に看護師さんに声をかけられ目覚めたが何だか体がだるいような気がする。でも体温も血圧も以上はない。突然の入院と退院できる安心感で疲れが出たかなと思い気にする事もなく看護師さんにも気だるさを伝える事もしなかった。
朝食も終わり久瀬さんが迎えに来てくれるまでまだ二時間近くある。荷物も昨晩まとめ終わっていたのでする事がない。少し休もうとベットに横になった。