もう一度あなたに恋をする
昼休憩を終えると森谷さんに呼ばれ一つの資料を手渡された。

「これ作ってくれる?わからない事があったら班の誰に聞いてもらってもいいから。」

「わかりました。急ぎですか?」

「えっ、いや今日中にできれば。」

手渡された資料にざっと目を通す。
もう終わった物件?私の出来をはかる試験みたいなものかな?

早速作業に取り掛かる、わからない所は隣の席の夏樹さんに聞きながら作業を続け二時間ほどで仕上がった。

「森谷チーフ、出来ました。出しますか?」

「えっ、もう?」

「・・・はい。」

私の出来ました宣言に周りも驚きを隠せないようだ。
森谷さんが席まで来て画面上で確認する。

「・・・完璧。」

森谷さんもみんなもそこまで驚く事?
大阪ではこれが日常。アシ一人で全てをこなしてたから早くて正確を求められた。
もしかして私って仕事が出来なさそうに見えてた?
自己紹介の時のざわつきも『仕事できなさそうなのに移動?』って思われてたとしたら納得だ。
それに夏樹さん達にも『かわいい』とマスコット的キャラ扱いされてたような・・・。
ちょっとショックで俯きかけた時、すぐ後ろからクスクスと笑い声がした。

「高木さん!」

「よっ、朱音ちゃん。相変わらず早くて正確だねー。」

高木さんは私が大阪にいた時、仙台事務所にいたチーフさんだ。人手不足だった仙台事務所の仕事を私は何度も手伝っていた。

「俺がいたの気づかなかったでしょ。」

「はい、緊張で全然周りが見えてなかったんで。」

「ははは。朱音ちゃんが緊張してるのって貴重だな。」

「高木さん、九条さんと知り合いですか?」

不思議そうに森谷さんが尋ねてきた。いつもの高木さんのテンションにつられ大阪とは違いここには周りに人がいっぱいいる事を忘れてた。

「仙台にいた時に向こうのアシだけでは間に合いそうにないものを朱音ちゃんに頼んでたんだよ。多い時で仙台の1/3ほど任せてたかな?なー。」

『なー。』って確かに大阪が暇だった時はよく仙台の仕事をしてたけど、まさかそんな量を任されていたとは。

「しかも大阪のアシは彼女一人だったから、どんな物件でもこなせる。しかも彼女は環まちの勉強もしてたからチーム久瀬が主とする都市計画なんかもバッチリ。うーん、うちのチームに欲しかった。」

余りにも高木さんが褒めてくれるから恥ずかしいです。

「朱音、すごい!」

ギュッとまた夏樹さんに抱きしめられた。
大勢の前で同性だとはいえ抱きしめられるなんて恥ずかしい。

「朱音、耳まで真っ赤。かわいい!」

やっぱり夏樹さんからはマスコット扱い?
そんな様子をみんなは笑いながら見ている。
その中でただ一人私を睨むように見る立花さんと表情を変えることなく見つめる久瀬さん。
そんな二人の事を夏樹さんに抱きしめられていた私は気づかなかった。
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