もう一度あなたに恋をする

無くした記憶

私が目覚めた翌日、私は自分の今の状況について説明を受けた。

私はここ一年近くの記憶を忘れてしまっていると言う。
今まで三年間働いていた大阪事務所は予定通り三月で閉鎖され、四月からは東京で一人暮らしをしながら本社で勤務しているという。そして私が入院するほどのケガを負っているのは階段から落ちたから。

幸いにも一部の記憶障害以外の後遺症はなかった。




午後になり刑事さんが病室を訪れた。
私のこのケガは事故ではなく事件だったと聞かされた。犯人はもう捕まっていて今は警察署で事情聴取を受けているという。

全く思い出せない・・・。

だんだんと頭が重く気分も悪くなってきた。
医師の判断により刑事さんとの面会は中止された。




「私・・・なにしたんだろう。・・・私を突き落とした彼女に・・・。」



傍で聞いていた母が涙をこらえて答えてくれた。

「朱音、あんたは何も悪くない。あんたが眠っている間に会社の方からもお話を聞いたけど、朱音は普通に自分の仕事をしっかりとしてただけ。彼女が一方的に嫉妬して、途中で心のバランスが取れなくなって、その気持ちが朱音に向かってしまったらしいよ。だからあんたは悪くない。」

私を抱きしめてくれた。
母に抱きしめられると落ち着く。でもなぜか今抱きしめてほしいと思うのは母ではないようなきがした。

傍で黙って様子を見ていた父が『朱音、退院したら大阪に戻らないか?』と呟いた。

さっき刑事さんと話をしていた時とは違い、頭ではなく心の中に靄がかかった。
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