極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
「あとは私に任せて、副社長はそろそろ執務室に戻ってください」

　アランさんに追いやられ、結貴は少し不満顔で社内に入っていく。

「では行きましょうか」
　
　アランさんのあとに続きガラス張りの店内に入ると、中ではすでに数人のスタッフがランチの営業のための準備をしていた。

「新しいスタッフの白石文香さんです」

　アランさんの声に、作業をしていたスタッフが手を止め挨拶と自己紹介をしてくれる。
　はつらつとした笑顔を向けられ、ほっとしながら「よろしくお願いします」と深く頭を下げた。

「この社内カフェは、社員の健康促進を目的にリニューアルされたばかりなんです」
「そうなんですか」
「これまでは研究職もMRも激務続きで自分の体調を顧みず仕事をしていたんですが、副社長の『自社の社員の健康を守れずに患者さんを救う薬はできない』という方針で労働環境の改善を進めているんですよ」

　結貴らしいなと小さく微笑む。
　人を気遣う優しさは、五年前から変わっていない。

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