極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 そして祖父を失うんじゃないかという恐怖。
 
 けれどそれを吐き出してしまったら、ひとりでは立っていられなくなりそうで、必死に歯をくいしばる。
 
 私が倒れたら未来はひとりになってしまう。
 しっかりしなきゃ。
 誰も助けてくれないんだから。

「無理はするんじゃないよ」
「うん。じゃあ次は日曜日に未来を連れてくるから」

 明るく言って立ち上がり病室を出ると、大きく息を吐きだした。


 さ、未来のお迎えに行かなくちゃ。

 気持ちを切り替え、階段へと向かう。
 
 階段の前で一歩足を踏み出したとき、めまいにおそわれた。
 お昼に紅茶を口にしただけで一日中動き回っていたから、貧血を起こしてしまったようだ。
 
 バランスを崩し体が前に倒れそうになる。
 肩にかけていたバッグからステンレスのボトルが滑り落ち、カツーンと高い音が響いた。
 
 落ちる……!

 体が階段に叩きつけられる衝撃を覚悟してぎゅっと目をつぶったけれど、いつまでたってもその痛みは訪れなかった。

「え……?」

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