極秘出産のはずが、過保護な御曹司に愛育されています
 俺がそう言うと、老人はなにかを察したようにうなずいた。

「なるほど、なるほど」
「半年ほど入院されているとお聞きしましたが、おかげんはいかがですか?」
「ぼちぼちです。この年になるとあちこちガタが来ていけませんね」

 ほがらかにそう言い笑った。
 穏やかで優しい人柄は文香と似ていて、話しているとほっとする。

 五年ぶりに再会した文香の姿を思い出す。
 階段で足を滑らせたところを偶然助けた。
 とっさに支えた腰は細く、華奢だった。
 
 驚いて目を丸くした表情。
 動揺して頬を赤く染める様子。
 恋人だった頃に愛した無垢な面影はそのままに、大人の女性らしさも加わりさらに魅力的になっていた。

 五年前、俺はプロポーズを断られ文香に振られた。
 本当に愛し合っていたし、一生彼女とともに生きていきたいと思っていた。
 もちろん彼女もそう思ってくれているはずだった。
 
 彼女から『好きな人ができた』と別れを切り出されたときは、とても信じられなかった。
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