甘い秘めごとのそのあとに
「けどさすがに、明凛祭の期間中は早く行くことになるかな」
「それは当然よ。お仕事なんだから」
「…はーい」
「あら、不服そう」
「俺とふたりで家にいるのに、こんな時でも委員長なのがちょっと不服です」
「…ふふっ」
明凛祭の期間はきっと、彼は生徒会の仕事で大忙しなはずだ。
気を遣ったひなが碓氷くんとではなく、わたしと校内をまわると言ってくれたけれど、気持ちだけ受け取ってお断りした。…碓氷くんに目で殺されそうだったので余計にお断りして正解だと思った。
せっかくの文化祭だもの。彼氏と一緒にまわりたいよね。
わたしはクラスの模擬店責任者でもあるし、一緒にまわる人もいないから、一日中たこ焼き屋さんを頑張ろうと思っている。
「…紗和?大丈夫」
「…えぇ、どうして?」
「…。なんか、寂しそうな顔してたから」
――…伊織は本当に、わたしにはもったいないくらい素敵な人だなぁと思う。
「そんなことないよ、明凛祭がみんな怪我なく無事に終わったらいいなと思ってただけ!」
世の中、仕方のないことってたくさんあるから。
…幸せな自分がこれ以上欲張りにならないように、心の中に冷たいものを落とした。
(…精一杯、がんばるんだっ)
待ちわびた明凛祭が、はじまる。