With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
顧問を訪ね、退部届を提出した私は、またグラウンドに舞い戻り、しばらく練習を眺めていた。本当に昨日まで、自分もあの中にいて、あれやこれやと慌ただしく走り回っていた。ただこんな風に、ボ-と立ってるなんてあり得なかった。


そして今、グラウンドには、昨日までチ-ムの主力であった私の同級生たちの顔は1つもない。彼らの一部は、サブグラウンドで練習をしている。私たちの高校野球は、昨日終わったけど、彼らの多くは新たなステ-ジで野球を続けることを望んでいる。だから、その為に練習を続けて行かなくてはならないのだけど、それはあくまで自分の為だけの練習。彼らは退部届を出すその日まで、御崎高校野球部員ではあり続けるのだけど、チ-ムの一員として戦うことはもう出来ないのだ。


練習が一段落したのを見て、私はグラウンドに入った。監督に退部挨拶をする為だ。


「監督。」


「おぅ。」


私の声に振り返った監督は、一瞬ハッとしたような表情になった。


「さっき、退部届を出して来ました。3年間、お世話になりました。」


そう言って頭を下げた私に


「そうか。世話になったのは、こちらの方だ。五十嵐には本当に献身的に部に尽くしてもらった。感謝しかない。ありがとう。」


そう言って、頭を下げ返してくれる。


「それにしても・・・寂しくなるな。」


「えっ?」


「毎年、こうやって3年生を送り出して、新しいチ-ムを作って、新たな戦いに挑んで行く。もう何度も繰り返してるはずなんだが、だからと言って、この寂しさには、なかなか慣れるもんじゃない。」


「・・・。」


「今、グラウンドではほとんどお目に掛かったことがなかったお前の制服姿を見て、『五十嵐は卒部するんだな』と改めて現実を突きつけられた気がしたんだよ。」


「監督・・・。」


「これから受験勉強で忙しくなるだろうが、たまには顔を出してやってくれ。後輩たちに少なくない五十嵐ファンの励みになるからな。」


そう言って、暖かい笑顔を私にくれると、監督は離れて行く。


「失礼します。」


最後にまた一礼して、私もグラウンドを離れる。歩きながら


(そう言えば、今日はギャラリ-が少ないな・・・。)


ふと思う。決勝戦で見た松本省吾くんと白鳥徹くんの応援ギャルたちの熱気も凄かったけど、我が校が誇るエース松本哲の人気も大したものだった。お蔭でマネ-ジャ-としては、随分苦労もしたけど、でも彼女たちの宴も昨日で終わったということなのだろう。


野球部のマネ-ジャ-というと、一般的に女子のイメ-ジが強いだろうけど、それはあくまで高校野球での話。大学になると、女子マネがいるところはだいぶ減って来る。3年間、マネ-ジャ-をやったことは楽しかったけど、大変だった。


(最後は負けちゃったけど、悔いのない3年間だった。もうマネ-ジャ-は卒業でいいな・・・。)


そんなことを思いながら、帰路についた私に


「恵美さん。」


と声が掛かる。ハッとして振り返ると、そこには


「純ちゃん・・・。」


ひとりの女子が、ひっそりと立っていた。
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