With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「昨日、西からも話があったが、一昨年に当時の3年生が卒業して以来、ウチはマネ-ジャ-が不在だった。その間のマネ-ジャ-業務は、選手が分担して行ってきたが、正直かなり厳しい状況だった。そういう意味でも、お前の入部は本当にありがたいし、歓迎する。」


「はい、ありがとうございます。」


「だが、マネ-ジャ-業務は、はっきり言って重労働だし、多岐に渡る。それを木本に付きっ切りで教えられる先輩もいない。来週からは朝練も始まるし、土日も部活がある。多分、友達と甘い物を食べに行ったり、買い物に出かけたり・・・そんな普通の女子高生が放課後や休日に楽しむようなことが出来る時間もほとんど取れないだろう。」


「・・・。」


「それにこの後、お前に続いて入部してくれる子がいればいいんだが、もしこのままならお前は文字通りの紅一点だ。やり辛いことも出てくるだろうし、嫌な思いをさせてしまう場面も出てくるかもしれない。」


「監督・・・。」


「もちろん、そんなことがないように、俺も部活顧問の山上剛造(やまがみごうぞう)先生も心を配るし、万が一、そんなことがあったら、必ず俺達でも西でもいい。相談、報告して欲しい。」


「はい。」


「ネガティブなことばかり並べてしまったが、しかしこれが現実だ。これを話した上で、あえて聞く。木本、お前がマネ-ジャ-を志望した理由はなんだ?」


そう言って、私を見た監督の顔を、真っ直ぐに見ると


「野球が好きなんです。」


と私は答えた。


「私は、野球が、高校野球が大好きなんです。本当は、みんなと一緒にグラウンドでプレ-して、一緒に甲子園を目指せればよかったですけど、でもそれが私には叶わないのが現実。だとしたら、私は、私に出来ることで仲間達と一緒に甲子園を目指したいんです。3年間、力の限り、やり抜きたいと思ってます。」


その私の言葉をじっと聞いてくれていた監督は、やがてニコリと微笑むと言った。


「ありがとう。」


「えっ?」


「俺はお前のような子を待っていた。明協高校野球部は、どうやら名マネ-ジャ-候補を手に入れたようだ。ひょっとしたら、白鳥の入部以上の補強かもしれない。」


「そんな・・・。」


あまりにも大げさな監督に言い草に、私は言葉を失って照れてしまう。


「木本。」


そんな私に、監督はまた言葉を紡ぐ。


「俺は学生時代から、野球ばかりやって来て、とうとう野球を生業にして、今日まで生きてきた、正真正銘の野球バカだ。そんな俺が、お前達に教えてやれることなんて、ほとんどないだろう。だが、俺は野球が好きだ、それだけは誰にも負けないつもりだ。だから、野球を通じて、何かをお前たちに伝えることが出来たら、そして将来、ああ明協高校野球部に居てよかったと、お前たちが感じてくれることがあったとしたら、そんな幸せなことはない。一緒に頑張ろうな、木本。」


ちょうどお父さんくらい、40代半ばの監督が、表情を輝かせて、私にそんなことを言う。それを聞いた私は


「はい!」


と思わず、大きな返事をしていた。
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