With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
「佐藤の本職はライト、たぶんレフトはあんまり守ったことないんじゃないかな?同じ外野手だけど、レフトとライトじゃ飛んでくる打球の球質や変化がまるっきり正反対だから、慣れないと戸惑うはず。今も佐藤は完全に目測を誤った。」


「そっか・・・。」


「こういうとこなんだよな。」


「えっ?」


「白鳥はひょっとしたら、僕の兄貴と互角に投げ合えるかもしれない。でも野球ってピッチャ-同士の対決だけで、勝敗は決まらない。野球はあくまでチ-ムとチ-ムの戦い、ミスをした方が負ける。」


「松本くん・・・。」


「兄貴ばかりがクロ-ズアップされるけど、御崎高はこういうスキをなかなか見せることがない。だから強いんだ。」


ここまでの練習試合でも、ウチのチ-ムは何度もこういうミスで痛い失点を重ねて来た。松本くんの解説に私は頷くしかない。


結果としてこのエラ-は、後続を白鳥くんが抑えてくれて大事に至らなかった。白鳥くんの力投に応えようと打線が奮起して、最後は星さんとキャプテンの3年生バッテリ-が締めて、明協は夏の県大会前の最後の対外試合を白星で飾った。


「勝つには勝ったが、課題も多かった試合だったな。」


試合終了後、私のつけたスコアブックを見ながら、キャプテンが言った。


「そうですね・・・。」


白鳥くんは完璧、大宮くんも攻守にハツラツとしたプレ-を見せていたけど、佐藤くんは慣れないレフト守備が得意のバッティングにも悪影響を与え、途中出場した松本くんも精彩を欠き、私の同級生達は好対照の結果に終わってしまった。


「眠れる獅子はいつ、目を覚ましてくれるのか・・・。」


「えっ?」


ポツンとつぶやくようなキャプテンの言葉に、思わず聞き返した私に


「いや、なんでもない。」


慌てたように言うと、キャプテンは私から離れて行く。


「今日で練習試合は終了だ、みんなお疲れさん。明日からは定期試験に伴う部活休止期間に入る。まずは各自、試験対策に全力投球してくれ。そして、それが明ければ、いよいよ夏の大会だ。新チ-ムになって3か月、まだまだ課題はあるが、俺は手応えを感じている。だからお前達も自信を持って、またグラウンドに戻って来てくれ。」


憂鬱な表情のキャプテンとは対照的に、石原監督はそう言って、前を向いていた。
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