With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
狙い通りのボールが来て、松本くんもいい当たりをしたんだけど、惜しくもファール。


そして2球目。松本くんのバットが再び動き出す。そして・・・


「えっ?」


凄まじい金属音と共に放たれた打球は見事な放物線を描いて、ライトスタンドへ向けて一直線。


「やった!」


思わず私は立ち上がる。それはそれは見事な、そして完璧なホームランだった。


「よし。」


佐藤くんも思わずガッツポ-ズ。


「省吾!」


普段は冷静な大宮くんも大声で、松本くんの名前を呼ぶ。大盛り上がりのベンチとは対照的に、当の松本くんは信じられないといった表情で、打球の行方を見ていたが、ふと我に返ると、ようやく走り出した。


ベ-スを一周して、ベンチに戻って来た松本くんは、まだ狐につままれたような表情をしている。


「松本くん、ナイスホ-ムラン。」


「やったな。」


「いや・・・初球が外角の変化球だったから、次は内角に真っすぐかなってヤマ張って、1.2.3のタイミングで振ったら、まさか・・・。」


「とにかく凄いよ。」


私の声に、松本くんは


「ありがとう。」


と言って、ようやく顔をほころばせた。


結局、この貴重な追加点がダメ押しになって、2-0のまま、我が校は見事に勝利。3回戦にコマを進めた。


試合終了後の両チ-ムの挨拶が終わると、選手達は今日応援来てくれたスタンドのみなさんへの挨拶へ走る。みんな晴れやかな顔で手を振っている姿を見ていると、私も自然に笑顔になるけど、ふと正面を見れば、相手校の選手達もスタンドに挨拶をしている。


しかし、その雰囲気は、ウチとは全く違う。涙を流している人たちも少なくない。それは残酷なほどの見事なコントラスト、私は思わず胸をつかれる。


やがて、ベンチに戻って来た選手達が、グラウンドに一礼して、ベンチ裏に下がると、私もあとに続く。
< 86 / 200 >

この作品をシェア

pagetop