With you~駆け抜けた時・高1 春&夏編~
試合翌日ということもあり、今日は軽めにという監督の判断で、練習は午前中で終了。


「木本さん。」


私が片付けに入ろうとすると、松本くんから声を掛ける。


「済まないけど、ここのネットの片付け、ちょっと待ってくれないかな。」


「どうしたの?」


「うん。佐藤と2人で居残り練習しようと思って。少し、打ちたいんだ。」


「昨日のホームラン、凄かったもんね。」


私が笑顔で言うと


「ありがとう、あの感触を忘れたくなくてさ。佐藤が付き合ってくれるって言うから。」


松本くんは引き締まった表情で答える。その顔に思わずドキッとした私は


「うん、わかった。じゃ、監督に報告しとくね。」


と平静を装いながら答える。


「よろしく。」


松本くんはそう言って、私に背を向ける。その後ろ姿を私がなんとも言えない気持ちで見ていると


「面白くなって来たな。」


という声が、キャプテンだ。


「省吾の前には、いつも哲という壁が立ちはだかって来た。2歳の年齢差、これは当たり前だけど、絶対に埋まることはない。幼児の頃はもちろん、幼稚園、小学校そして中学校・・・この頃の2歳の年齢差って決定的だ。勉強もスポ-ツもその他のことも、ほぼすべての面で年下は年上にまず絶対に敵わない。」


「はい・・・。」


「だから、省吾からすると、物心ついた頃から、何をするにしても、常に哲が一歩前を歩いていたんだ。兄貴には何をしても絶対に敵わない、奴がそう思い込んでしまっても無理はない。そして、そのことが、アイツを萎縮させ、また自分に自信を持てなくしていた。」


「・・・。」


「でもな、齢の差は絶対に縮まらなくても、年齢が上がって行けば、力の差は縮めることが出来る。いや逆転することだって出来る。昨日のホームランが、それにアイツが気が付くきっかけになってくれたかもしれん。」


「はい。」


やがて、佐藤くんがピッチャーを務めて、松本くんが打ち始める。本職じゃないけど、強肩の佐藤くんの投げるボールは結構スピードがある。


しかし、そのボールを松本くんは、ものの見事に打ち返し、その打球は気持ちいいくらいに、ライト方面に飛んで行く。


「凄い、今までと、打球の飛び方が全然違う気がします・・・。」


私は思わず、感嘆の声を上げる。
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