消えないキモチ
【再会】


その彼との再会はニューヨークの街角だった。
ギャラリーの店頭に飾られていた富士山の写真が目に入った。そこに付けられていた名前が彼と同じだったから思わず足を止めた。

Natori Yuki-no-joe

なとり・ゆきのじょう──名取雪之丞。

とても特徴のある名前。
そんな馬鹿な、何故こんなところに彼の名が。同姓同名などそうはいないだろう。
思わず店内を覗き込んでいた、店の中に居た数人の男女の内のひとりと目が合った。
息を呑む、何故、この場所で、このタイミングで──。
彼も瞬時に私が判ったらしい、途端に破顔した。話していた男女に挨拶をしてこちらへ来る。

もし、目が合っていなかったら、私は同行者に早く行こうと急かしていただろう。でも今それをしたらあからさまに逃げる様だと思ってやめた。いや、できるなら本当に逃げ出したかった。だって同行者は夫となったばかりの人で、私は新婚旅行の真っ最中なのだ。
そんな時に会いたくなかった──初恋の人と、こんな風に。

永遠に色褪せる事のない初恋、それを抱えたまま大人になり、叶う事はないと私は結婚を決意した、なのに──。

なぜ、今、ここで、出逢うのか。
久しぶり、と笑う彼が眩しかった。変わってないなと言われて、あなたもね、と返していた。
一緒にいた男を主人だと紹介した、彼は笑ってそうなんだ、と言った。
新婚旅行なのだと言ったら、じゃあプレゼントをやると言ってくれた。一度ギャラリーに戻ると一眼レフを持って戻ってくる。
ニューヨークの街並みを背景に、ポーズを指定されてふたりの写真を撮ってくれた。
向かい合わせになって、夫が私の腰を抱いて持ち上げて、私は夫を見下ろす。
その一瞬に何回もシャッターを切られた。

「もっと笑えよ」

笑えない、笑顔になどなれない。あなたに見つめられながら、その次に愛した男性を見て微笑むなど──。

出来上がったら送るよ、と言うので連絡先を交換した。
初めてできた彼との繋がりに、私は密かに心を躍らせてしまう。

数週間後、届いた写真は立派な額に入っていた。夫はいい記念になったと喜んでいた。
名取はその道では有名なカメラマンとなっていた。この写真だって出すところに出せばいい値段が付くだろうと夫が言う。もっとも名取は風景写真家だ、人物を撮ったものが、レアとなるか価値なしとなるかは判らない。

私は震える指でスマホを操作して、名取の名前をタップする。

『届いたよ。素敵な写真、ありがとう』

返信はすぐにあった。

『結婚祝いだよ』

そんな当たり前の言葉に、勝手に傷ついていた。
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