ポケベルが打てなくて

1. 彼女からの暗号を解読せよ!

「かっ、解読できねぇ…………」

 昨日、彼女に(半ば無理やり)持たされることになった、グレーの小さなポケベル。
 教室の窓際、前から三列目の自分の席へと辿り着くと、窓枠いっぱいに広がった青空を視界に入れて座った俺は、そのディスプレイに表示された数字を見つめて頭を抱えた。

『3143228844040332814404』

 まったくもって、意味不明。
 ポケベルに送られてくるメッセージってのは、『0840』で『おはよう』みたいな簡単な語呂合わせか、もしくは、連絡してほしい電話番号くらいだと思っていたのだが。
 これは……語呂合わせにしても、電話番号にしても、長すぎるだろ……。

 窓から入り込む爽やかな風とは対照的に、俺はどんより曇ったため息をついた。


 彼女――菜摘(なつみ)とは、付き合って一週間になる。
 ショッピングセンター内にある惣菜屋でのバイト仲間で、シフトが重なることが多かったこともあって、狭い調理場で話をしてるうちになんとなく意気投合して……といった具合。

 そもそも俺がバイトを始めたのは、通っている高校が圧倒的に男子の数が多い工業高校で、校外に女子との出会いの場を求めて……という不純な動機だったりするわけで。
 だから、お互いのシフトが空いていた昨日、ポケベルショップに連れていかれたときも、硬派なフリして乗り気じゃないように見せてはいたけど、実はまんざらでもなかった。

 ……が。
 解読できなきゃ、意味ねぇよな……。

 がっくりと肩を落としてうなだれていると、
 ちょいちょいっと。
 誰かに背中をつつかれた。

「松田、何してんの?」

 振り返るとそこには、物珍しそうに俺の手元を見つめる井上がいた。
 井上は、学校一モテる(とはいっても、女子の数は相対的に少ないんだが)ナンパ男なのに、こんな硬派な(フリをしている)俺となぜかよくつるんでいる。

 ……そうだ。
 学校中の女子のポケベル番号を把握している(本当かどうかは分からんが)井上なら……。
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