ポケベルが打てなくて

2. 公衆電話争奪戦、開幕

「松田ぁ、何てメッセージ送るか決まった?」

 一時限目が終わると、井上はすぐに俺の席までやってきた。

「あぁ……まぁ、一応」
「お、どんな?」

 自分で考えたものが、果たして正解なのかどうか分からねぇ。
 ……が、素直にコイツに確認してみるのも、なんだかプライドが許さねぇ。

「もし井上だったら、どう送る?」
「オレ? ……そうだな。『今すぐ君のところへ行って、そのお尻を消毒してあげたい』とか?」

 思わず俺は、がっくりとうなだれた。
 はぁぁ……コイツに聞いた俺がバカだったんだ。

「いや、ゴメン。冗談」

 あははと笑った井上(どう見ても謝ってるようには見えないんだが)は、俺の背中をポンポンと叩いて、

「んー……とりあえず、『大丈夫?』とか、そんな感じ。心配してるんだ、ってことは伝わるんじゃないかな」

 その言葉を聞いて、俺は安堵のため息をついた。
 ……よかった。俺が考えていたものは、どうやら間違いではなかったらしい。








 ポケベルにメッセージを送るために必要なモノ。それは、電話だ。
 職員室に置かれている電話を生徒が私用で使わせてもらえるはずも(よほどの理由がない限り)ない。
 生徒が自由に使えるのは、管理棟一階の事務室前に置かれている、たった一台の公衆電話。



 井上と一緒に管理棟一階にたどり着いた俺は、自分の目を疑った。

「なっ……なんじゃこりゃっ!?」

 そこで俺が見たものは、テレホンカードを手にした生徒が作る長蛇の列、列、列、列、列、列、列、列、列、列、列、列、列。
 緑色の公衆電話から始まったその列は、5メートルほど離れた位置にある階段を上って、2階から3階へと続く踊り場にまで達していた。

「……これ、休み時間中に間に合うのか?」
「いやぁ……無理だね、多分」
「いつもこんなに並んでんのか?」
「んー……そうだね。オレはいつも授業終わったらダッシュで来るから、この長蛇の列を見るのはたいていベル打ち終わった後なんだけど」

 そういうことは先に言っとけっ!!

「次のチャンスは昼休みだね」

 井上は、さっき俺が返した生徒手帳にメモってある時間割を見つめながら言った。

「昼休み? まだ一時限目が終わったばかりだぞ」
「次の二時限目が終わったらさ、三時限目、体育じゃん。今日の体育、水泳でしょ?」

 ……っつーことは、三時限目の前後は着替えたりなんなりで、電話に並んでる余裕なんて、これっぽっちもねーってことだな。

 おっし、昼休みは弁当食う前に来るぞっ!!




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