桜が散ったら、君に99回目のキスを。
通学時間の満員電車は、とても居心地が悪い。


春先だというのに効きすぎた暖房はねっとりと体に絡みつくし、これでもかという程教科書が詰まったスクールバックは肩でジンジンと重みを主張する。


おまけに今日は女性専用車両に乗れなかった。


単純に乗り降りがしやすいから選んでいるのだけれど、今日は雨だからか車両に足を踏み入れるのさえままならなかった。


それでも何とかほかの車両に乗り込めたのだからまだマシだ。


そのはずだった。


(……きもちわるい)


酔ったわけでなくて、きっといつもと環境が違うから。


冷たい水を口に含めば少しくらいは楽になるかも、と思ったけれど、あいにく人という人に揉まれる電車の中では鞄の中身を取り出せるほどの空間はなかった。


高校のある桜ヶ丘まではまだ15分程ある。


どうしよう。次の駅で降りる?


焦るほど心臓が大きく脈打って、サァーと血の気が引いていく。


目の前に座るOLさんは眉間に皺を寄せたまま目を閉じ、周りのサラリーマンは顔を背けて両手で吊革を握っている。


とても助けを求められるような状況じゃなくて、私は雫のついた傘の柄を固く握った。


視界の端がゆらりと揺れる。
吊革に掛けた指先は白く、感覚が少しずつ遠ざかっていった。


頭の先から冷気が下がってきて、胸の辺りが息苦しい程に押さえつけられるようだった。
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