愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
「思いを伝えるなんて、とんでもない。そんな勇気なんて、私達は欠片も持ってませんでした。同じ学校の1年先輩なのに、物凄く遠い存在、私達はその姿を見て、応援するだけで満足だったんです。」


由夏は、カンペも何も見ずに語り続ける。


「やがて先輩は、グラウンドを去って行かれました。それと同時に私達がグラウンドに足を向ける機会もほとんどなくなりました。実は私には、先輩が去っても応援したい、応援すべき幼なじみがグラウンドにいました。だけど、当時の私は子供で意地っ張りで、彼のことを素直に応援出来ずに、グラウンドに背を向けました。」


(由夏・・・。)


突然、関係ないことを言い出した由夏に驚くが、由夏は何事もなかったかのように続ける。


「そして、悠の恋の一方通行も終わったはずでした。だけど・・・神様はそうはさせなかったんです。」


由夏の口調が熱を帯びて来た。


「白鳥先輩が最後の甲子園大会で右肩をケガされ、結局野球を断念せざるを得なくなったことは、本日ご列席の皆様はご存知のことと思います。そして、その右肩の治療の為に、1年間休学されたあと、先輩は1年後輩の私達のクラスにクラスメイトとなって、現れたのです。席は、他ならぬ悠の隣。普通なら出会うはずがなかった2人が出会って、あとは磁石がお互いを引き合うように、相思相愛になって行ったんです。ああ、運命って、やっぱりあるんだな、傍で見ていて、私はつくづくそう思いました。」


まぁ、いろいろあったけど、な・・・。


「悠、一途に先輩を想っててよかったね。先輩、悠と出会うまで、脇目も振らずにいてくれてありがとうございました。そして2人は、順調に愛を育くみ、可愛い娘とまだ見ぬ赤ちゃんにも恵まれ、今日の日を迎えられました。私は2人を身近に見て来た1人として、2人が、2人の愛が、羨ましく、そして眩しいです。私は今日、2人のお陰もあって、心を通じ合わすことが出来た幼なじみと一緒に、2人の門出に立ち会えたことを嬉しく、光栄に思っています。そして、2人がこれからも私達が目標と仰ぎ見るような、素敵で幸せな家庭を築いて行かれるのを心から応援しています。悠、先輩、改めて本当におめでとうございます。そして悠、これからも加奈と三人組で、一生の親友でいようね。」


そう言って、満面の笑みで自分を見た由夏に、目に一杯の涙を浮かべた水木がまた大きく頷いていた。そして、その横で先輩が温かい表情で、由夏に一礼している。


新郎新婦に、更に会場に一礼して、席に戻る由夏に拍手が贈られる。もちろん俺も大役を無事果たした恋人に手が痛くなるくらいの拍手を贈っていた。
< 126 / 330 >

この作品をシェア

pagetop