愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
気が付けば6月の声を聞き、ジメジメした気候に私の不快感は、増していく一方。


そんな中で迎えた秋冬物の展示会。今季の商品が、陽菜さんがウチの会社でデザインを担当した本当に最後の商品。私は、自分のデザインした商品と同じくらい、いやそれよりもずっと力を入れて、陽菜さんのデザイン商品をプッシュした。


「今年の春夏物見た時に、ああ丸山さん、スランプ脱したなと思ったんだ。今季の商品も可愛いし、素敵なのが多いよ。なのに辞めちゃったなんて残念だよねぇ。あっ、岩武さんの商品ももちろんいいよ。頑張って売ってくからね。」


顔見知りの系列ショップの店長から、こんなことを言われて、私は涙が出そうになった。


昼休憩に入り、社食に上がって行くと


「岩武。」


と私を呼ぶ声が。振り向くと平賀さんが、手招きしている。あまり気が進まなかったが、無視するわけにもいかず、トレ-を持って近寄って行き


「お疲れ様です。」


と言いながら、隣に腰かけると、前に井上さんが座っているのに気付いた。一瞬顔がこわばってしまったが、私は彼女にも一礼する。


「お疲れさん、どうだ反応は?」


「お陰様で、結構好評です。陽菜さんの担当商品は、特に売れそうって、ショップの人達からの反応も上々です。」


そうニコリともしないで、言った私に、平賀さんも井上さんも少し困ったような表情になったけど、気を取り直したように


「そうか、ならよかった。」


とぎこちない笑顔を浮かべて、頷いた。


「今季のマルの商品はイケると思ってたんだよ。彼女がいないのは残念だけど・・・。」


「そんな今更のこと、言わないで下さい!」


思わずそう大声で言ってしまった。


「おい、岩武・・・。」


固まる井上さんに、とりなすように平賀さんが言うけど、その後私は一言も口をきかずに、食事を終えると


「失礼します。」


と席を立った。陽菜さんは、私より彼女の方が可愛いでしょうからねって、言い放っていたけど、この2人が付き合っている様子はなく、どうやらその点は、陽菜さんの誤解だったようだ。


でも陽菜さんを追い出したのは、この2人だと私は信じていたし、だからこそ、私は平賀さんと井上さんを許せず、あれ以来、2人に対して、こんな態度をとってしまうことが多くなっていた。


仮にも自分にとっては、上長であり、親会社、取引先のバイヤ-だ。そんな人たちに対して大人げないし、まして本来許されない態度なのは、分かっている。


でも、何を話していたかは知らないけど、親しげに食事していたに違いない2人の様子に、きっとこんなふうに陽菜さんのことも話してたのだろうと思ったら、気持ちを抑えることが出来なかったんだ。
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