愛を贈りたいから〜これからもずっと〜
梅雨なんて、ジメジメしてて、もともと好きじゃなかったけど、この仕事に就いてからは、ますます嫌いになった。


とにかく、少しでも早く熱い太陽がギラギラ輝く季節になって、盛夏物や水着がバンバン売れるようになればいい。


そんなことを思いながら、天気予報とにらめっこする季節が、ようやく終わった。


「いよいよ、ここからが勝負だ。」


その日の朝礼での、平賀さんの言葉にも、力が入っていた。


だけど、実際には、夏物に関して、私達に出来ることは、せいぜい動向調査を兼ねて、系列ショップに販売応援に入るくらい。私達の仕事のメインは次の秋冬物、更には来季の春夏ものに向いている。


そんなある日、来季の商品のデザイン考案で、パソコンとにらめっこしていた私は、平賀さんに呼ばれ、彼の執務室に入った。


「なんでしょうか?」


平賀さんのデスクの前に立って、自分の表情が硬くなっているのは自覚している。私の平賀さんに対する感情は、好転してはいなかった。


「夏物の動向だが、女子ヤンカジュに関しては、いい出足だ。」


「そうですか。」


その言葉に、さすがに私の表情も緩む。よかった・・・正直ホッとした。だけど、次の平賀さんの言葉で、私の表情は、また固くなる。


「丸山は・・・元気にしてるか?」


「知りません。」


思わず、ぶっきらぼうな口調になってしまった。


「そうか、お前達は連絡を取り合ってると思ってたんだが・・・。」


意外そうに、平賀さんは言う。確かにしばらくは、陽菜さんとは連絡は取り合っていた。私が送別の品として贈ったアロマセットを喜んでくれて


『毎日、癒やされてるよ〜。』


なんてLINEも来てた。でもある時、私が仕事の愚痴や相談を送った時に


『ゴメン、悪いけど、その話は聞けないよ。』


という返信があってから、だんだん頻度が下がって行き、最近は既読スルーみたいな形で、返信も来ない状態になっていた。


「岩武。」


「はい。」


「丸山のことで、お前が俺に腹を立ててるのはわかってる。俺には、俺の考えがあって、あの人事を具申し、上も承認した。そのことについて、俺は説明も弁明もするつもりはない。」


「・・・。」


「丸山は去った。しかし、俺達は会社にいる。会社にいる以上、自分達の責任は果たさなきゃならない。女子ヤンカジュは、岩武、お前が事実上の責任者、そのつもりでやってもらう。」


「平賀さん・・・。」


「いいな。」


「はい。」


そう言って、まっすぐこちらを見た平賀さんの言葉に、私は頷いていた。
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